| (禁じ手〜敵は天帝だった) ********************************************************************* 『天帝』 「何ゆえでございますか?」 蓬山の主、碧霞玄君───玉葉はその優美な貌に苦渋の色を明らかにしていた。 白塗りの広間にはさらさらと砂が流れ落ちる音だけが満ちている。広間の奥で輝く砂が水の如くに流れていた。はるか頭上より降りそして消えていった。 白い大理石の壇上には白金に輝く御座がある。が、今は空で子供が独り、階段に座り込み遊びに耽っていた。 「何ゆえに、泰麒の治癒はならぬのでございますか?上よ!」 応えはなく、空の御座に深々と叩頭したまま、玉葉は言葉を重ねた。 「泰麒は角を失い、蓬莱にて6年間も耐えて参りました。にも関わらずあのようになってまでこちらに戻って参りました。泰麒に角がなければみすみす死に向かわせるようなものではございませぬか。戴は北の国、毎年冬になると多くの民の命が消えて行きまする。このまま泰麒が死なば戴は必ず滅びましょう。上のお力があれば泰麒の角の治癒も叶うはず。何故でございますか?!」 「だってアイツ嫌いなんだもの」 若い、いや幼い声が広間にひびき、階段で遊んでいた子供が玉葉を振り返えった。 「だって、とうてつは僕のものなのに、あの黒いのが取っちゃたんだよ。あんな奴死んじゃえばいいんだ」 はっとした玉葉は思わず顔を上げた。 言い放つその唇はふっくらと紅く、頬もふっくらとして、憎憎しげに細められた目にもあどけなさが残る姿の子供は、玉葉を見下ろして小首をかしげた。 「僕より強く名で縛るなんて赦せない・・・天帝の僕に逆らうなら、玉葉、お前も消しちゃうよ?」 「───上!」 あどけない子供の言葉にも関わらず、玉葉の身体には震えが走った。 「まあまあ、如何なさったのじゃ?」 甘いとろける様な女の声が聞こえ、玉葉は一旦上げた頭を再度深々と下げた。 その横をさらさらと絹の擦れる音が通り過ぎて行く。 「王母!」 子供の声に喜色が混じり、玉葉の心には苦いものが生じる。 玉葉は知っていた、西王母が決して彼女の味方にはならないことを。 「玉葉がまたうるさいんだよ、あの黒いのを助けろって」 「ほほほ」 と笑った彼女は階段の途中で足を止め、口を尖らせた子供の頬をいとおしそうに両手ではさみこんだ。 「人と交わると情も湧くのであろう。玄君は───蓬山は人の世界が無くては成り立たぬものゆえ、見逃しておあげなされ」 そう言うと、目を細め、子供の額に口付けをした。 「許してたもれ。かの麒麟の穢瘁はこちらが不快に思う程であったので祓ってしもうた。あのままだと玉京まで穢れてしまうのでな」 「えー、ダメだよ、そんなの」 ぷっと頬を膨らませた子供はしかし、耳の後ろにも口をつけられると、くすくすと笑った。 「けれど饕餮はわらわがお預かりしておるゆえ、清めた後でご覧になるかえ?」 「うん!」 子供は目を輝かせ、女はうっとりと子供の髪を撫でた。 「饕餮は今は名で縛られていようが・・・」 「大丈夫、僕は天帝だもの。今度は麒麟ごときに負けやしないよ」 「ほほほ、それは頼もしい。・・・それはそうと、泰麒を消す為に呪をかけたあの男は如何なさる?放って置いた間に随分と民草の命を消しておるようじゃが?」 白い石の床に額をつけた玉葉は目を見開いた。 「どうでもいいよ、役立たずなんだもの。泰麒は逃がしちゃうし。ほっとけば呪のせいでもっと狂うんじゃないの?いいよ、戴一国くらい。あそこはいっつも上手く行かないからイヤなんだよね」 「では・・・」 西王母が耳に唇を寄せ、何事か囁くと、子供はおかしいのか、くすぐったいのか身をよじり、くすくすと笑った。 それをみて女も微笑み、叩頭したままの玉葉に片手を上げた。 退室を促す気配は明白であったが、玉葉は必死の面持ちで顔を上げた。問いたださねばならぬことがあった。が・・・ 「王母!」 「退がりゃ」 こちらを向いた表情のうせた西王母の顔に、玉葉は心に苦いものを満たしたまま、下がらねばならなかった。 広間の扉を閉める寸前、子供のかん高い嬌声が耳について─── 玉葉はその美しい眉をひそめ、溜息をついた。 「なんとしたことか・・・」 思わず己の耳を疑った。が、おそらくそれこそが真実であろうと、頭のどこかで理解している自分がいる。 だが、何もできぬ。 何もできない自分が腹立たしく。 天帝と西王母がすなわち玉京なのであり、神仙の世界に生きる以上、みだりに人と交わることは許されぬ。 もともと人であり、人の世界に自ら足を踏み入れる物好きな天仙もおらぬではなかったが、今は何処を放浪しているのやら。 奇跡などは望まぬ、と言い切った戴の将軍の瞳を思い出す。震える手で胸を押さえた。 「ああ、なんとしたことか・・・」 玉葉は、瓏たけた面を伏せ、その見かけの年齢とはかけ離れた永い年月の中で一番深い溜息をついた。 ****************************************************************** 甘甘坊やと甘甘母さんです。プラス頑張れ中間管理職(笑)です。 書いてて腹立ちましたvv オチとか続きとか考えてませんが、どうでしょう? これで行くと構造改革まで行くでしょうか?世界の崩壊かな? 天帝って馬鹿か、プログラムされたモノか、 どっちかなあと思うのですが・・・馬鹿を書いてみました。 書いた後で、新井素子さんの「いつか猫になる日まで」の影響大だな、 と思いました^^; それにしても私、饕餮好きだなあ・・・ |
| 既にヌシ様のご自宅でご覧になった方も多いと思います。チビガキ天帝編です。・・・スゴイっす。ヌシ様にしか考えつきませんとも・・・(嬉)SFに出て来そうな生意気ガキんちょの天帝も、これまたハリウッド映画に出てきそうなママ。ヌシ様はオチも続きも考えていらっしゃらなかったようですが、ぽぺさんがさらにパワーアップしたものを出して下さいました。→こちら |