これは、夢だと思っていた。
私ではない、誰かがやっている事だと信じていた。
あの日、台輔の『ツノ』が見つかるまでは――。



『夢で出会った知らない私』




載国を救おうとする私たちの行動は、何故だか阿選につつぬけ だった。
昨日まで、私たちの味方だった者達が次の日には寝返るか、消 えているか。
そして、阿選に打ち滅ぼされるか。それしか道は無かった。
そんな事が、何かを起こそうとすると毎回のごとく続いた。
皆の心には、確かにこの祖国を救いたい、この国で一生を終え たいという願いがあるにも関らず、けして変わらない事実。
台輔にお帰り頂いてからも、けして楽だったわけではない。
花影を探し、正頼を探し、散らばった仲間たちを探す。そして 、驍宗様をお探しすること。私の腕は、もう使い物にはならな いが、其れでも何かの役に立った事が嬉しかった。台輔がおっ しゃった言葉が嬉しかった。
「僕は、李斎がいてくれると、心が落ち着くんです。それでは ダメですか?それが、貴女がここにいる理由にはなりませんか ?」
そして今、謀反人である阿選を討ち取ろうとしている。
これで、全てが終ると思っていた。そう、皆が思っていても仕 方がない事ではないか。彼が、あの事を言うまでは。
「ツノが…台輔のツノが全ての元凶なんだ!!!」
首を撥ねられる直前に、彼はかつての友である驍宗様の袖を掴 んで言った。
まるで全ては終っていない事を伝えるかのように。
彼の眼<まなこ>は、今まで数々の遭遇の際に見た彼の眼と違 っていた。
狂気に彩られるでもなく、澱んだ瞳でもない、理性のある瞳で …。
「ツノ…?」
目を見やると、阿選の手には何かが握られていた。
考えなくとも分かる。恐らく、斬られた台輔のツノだ。
「これが何だと言うのだ…?」
拾い上げたツノを台捕に渡した瞬間。何かが頭の中にどっと流 れ込んできた。
それは、無くしていた自分の記憶。いや、正確に言うなら『自 分達』の記憶。
恐ろしい顔をして、剣を振りまわす自分。無表情で処刑を言い 渡す花影。敵を徹底的に壊滅させる事だけを考え、策を練る正 頼。
どれも、自分のことなのに、まるで覚えていなかった。
「ど…どう言う事なの!これは…本当に私なの!?」
花影は信じられないと叫んだ。台輔が戻られる以前に、記憶が 飛ぶ事は度々あった。その答えがこれなのか!
だが、台輔が戻られてからはそんな事は一度たりとも無かった 。何故なのか。
疑問に答えたのは、黒麒麟となっていた台輔だった。
「麒麟のツノは、蓬莱や崑崙では万病に効く薬であると共に、 権力を手中しようとする者達が欲しがったものでもあります。
ですが、正しい者が使わないと、その効力は負に陥る。
恐らく、これは常世でも当てはまるのでは?
阿選も最初は普通の謀反だったのでしょう。僕を殺して上手く いく筈だった。所が何を間違ったか麒麟のツノを斬ってしまっ たのです。
それにより、陰陽の均衡<バランス>が崩れた。本来の持ち主 で無い、阿選が僕のツノを握った瞬間から、すべては負へと流 れていったのでしょう。
『民意の具現』である麒麟のツノを斬った事で、能力の暴走。 しかも、僕は黒麒麟だった。その暴走は凄まじく、皆を巻き込 んでしまったのでしょう…
僕の力を押さえる能力が無いばかりに皆を!!!」
そして、悲しそうに泣き崩れた。
台輔は黒麒麟で胎果。蓬莱の教えでは、黒は不浄とされている 。
人の心の基盤が出来あがるのは、幼き時。
『黒は不浄』と刻み込まれた者は、果たして生活する場所を異 なる場所に移したとして、簡単に刻み込まれたものを覆せるの だろうか――。
この国を襲った『黒き闇』それは、台輔の嘆きではなかったか 。

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怖い夢を見て、褥から飛びあがって起きた事があった。
「怖い夢を見たら、このお守りを握り締めて寝てください」
そう言って、台輔は皆にお守りを配っていた。それは、紙に包 まれた台輔の鬣を刻んだもの。台輔の力によって、台輔の負の 力から守ろうとしたものだったと気付いたのは、全てが終った 後だった。
アレは、恐ろしい顔をして弱い民草を切り殺している私だった 。
知らない顔をしている私。
でも、確かに私の一部。


あれは、夢で出会った知らない私――。


<了>




えーと、禁じ手書いてみたのですが…最初は李斎だけを敵にし 様かな―なんて考えて、書いてたら…気がついたら皆が敵or 皆が味方というとんでもない事になっちゃいました。おほほほ ほ。






りょくさんの手による禁じ手です。誰が敵かわからない戴国は禁じ手の宝庫ですね。りょくさんの書かれるお話は左脳をたくさん使うので、右脳人間の私は倍もアタマを使った気分になります。(苦笑)こ、これはフロイトかユングの心理学でしょうか・・・?(また勝手な解釈を・・・)敵は「泰麒のツノ」だったということですな。心理学では、人は生きていくのに辛すぎる記憶や体験を忘却や改竄によって意識下に封じ込める作用が働くそうですが、ツノはそれを許さないということなのでしょうか。ツノは戴国の民のマイナスの感情を集めて昇華させる働きがあったとか。(『魔天道ソナタ』のラー・デビルのように)だとするとツノを手にしてしまった阿選は皆の負の側面を一人で体現しちゃった訳で、そりゃー大変だ・・・・