(禁じ手〜敵は琅燦)

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『知悉』



「とうとう来たね。」
泰麒と李斎と、そして玉座に座る彼女以外、誰もいない主殿の広間に陰々とひびく声。
「その血は阿選の?さすがは黒麒だ。」


───何故、あなたが
「何故?何故だろう。」


彼女は───冬官長であった琅燦は、薄く笑った。


───私はね、もう何年生きたか自分でもわからない位、生きてきた。
この国で一番の年寄りだね、多分。
呪術や冬器に関することなら何でも学んだし、何でも知ってる。
だから、麒麟の弱点も知ってるし、宝重だって扱いようによっては扱えるんだよね。
ある日、気が付いた。もう、学ぶべきことがないんだよ。
なんてことだろう。
そんな時あなたが来たんだ、泰麒。
何百年に一度の黒い麒麟。
私にとって想像もつかない力を見せてくれるだろう───そう期待していたのに。
貴方ときたら、何も知らない小さな男の子。
私に教えを請うたりするんだからな。
だから。
罠にかけた。
貴方が力を発揮できるように。
なのに、せっかく罠にかけたのに蓬莱に逃げてしまうなんてずるいんじゃないの?


一見すると18、9の娘の彼女は玉座で膝を抱え、独り歌うように話した。
「本当に何でも知ってるんですか!今、戴の民がどれほど悲惨な目にあっているかも!」
「ああ、それは私には関係ないことなの。人の暮らしなどどうでも良いことでしょうが。だって私は力あるものが好きなんだもの。弱い生き物は嫌い。───だから、あんたのことは嫌いだな、李斎。」
泰麒には隣の李斎が息を呑む音がはっきりと聞こえた。
玉座の上の彼女は眉をひそめ、
「手まで失って、武人ともあろう者が・・・」
「!誰のせいだと!」
泰麒が怒りに身を震わせていると、琅燦はにっこり微笑み、膝に置いたものを取上げた。
金色に光る香炉から紫色の煙が細く、静かにたゆたっている。


「これ、宝重。」


───知っている?これは思考を縛るもの。
ねえ、李斎、もう、終わりにしなさいよ、あんただって辛いんでしょうが、武人が片手無くしてそれで生きていく意味があるわけ?この声が聞こえるでしょ、この声に従いなよ、これが力だよ、あんたが無くしたもんだよ、あたしが持ってるんだよ、こっちにおいでよ、取りにおいでよ。


「李斎!李斎!しっかりして!」
「やめて!やめて下さい!」


───泰麒。悪いのは貴方なんだよ、貴方が弱い子供のふりなんかしたからいけないんだよ、黒麒のくせに、私になんにも見せてくれなかった貴方が悪いんだよ、弱ければ守ってもらえると思った?弱くても何かが出来ると思った?お馬鹿さんな麒麟さん、貴方には何も出来やしないんでしょうが、何一つとしてもってないんでしょうが、李斎を守れる?止めてご覧よ、その血まみれの剣で阿選を止めたように。


紫色の煙が体にまとわりつき、琅燦の声が頭の中を蠢いて。
血にまみれた剣の切っ先が李斎の方に向けられて。
「う・・・ぅ・・・」
「いや、だ」
「・・・・・ご、」


傲濫!
泰麒の喉から悲鳴のように声がほとばしり、その瞬間。
天の戒めをも喰いちぎった巨大な黒い影が姿を現した。
目を見張った琅燦に、饕餮はその鋭い鉤爪を振り下ろした。
赤い血が暗い闇に飛び散り、玉座を染める。
琅燦の首はかろうじて体と繋がってはいたが、ぱっくりと裂けた喉からは声も出ず、ひゅーひゅーと息だけが漏れる。
だが、琅燦は笑っていた。顔を不自然なまでに傾けたままで笑っていた。
その目に歓喜の色があるように見えたのは何故だろう。
琅燦の唇が声にならない声を紡ぐ。
黒い影を呼ぶように。


───はじめまして、饕餮。やっとあんたに会えたね、ずっと会いたかったんだ。


饕餮がその口を閉じた。


───さよなら、泰麒。
───ありがと、黒い麒麟さん。


コロン、と小さな音をたてて、金色の香炉が転がった。
泰麒と李斎と、血まみれの玉座だけが残された。


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(読み返して)うわー、読後感わる〜。
えー、琅燦は永く生きることに飽きると、今まで溜め込んだ知識を使って見たくなるのではないかと。
最初に泰麒に「謀反かも?」の情報流したのって、彼女だし。
禁じ手二つ。宝重まで出してしまいました、てへっ。
だって、どうせ恥のかきついでだと。
はーさま、新刊出たら消して下さいませね。
禁じ手もう一つだわ、饕餮登場、いいのかなあ?






ヌシ様作「敵琅燦」です。彼女もかなりインパクト強い脇役。謎も多いお人。宝重も出てます!思考を縛る香炉だなんて、そのヨコシマな響きがなんか戴極国っぽいです。(なんか十二国一暗い国民性な気が…←酷)