浅茅生の 小野の篠原 忍ぶれど あまりてなどか 人の恋しき
「主上は?」
尋ねると、女官が憂い顔で首を横に振った。
「まだ終わらぬと、執務室からお出になりません。」
「そうか・・・。」
浩瀚は難しい顔のまま、女王の執務室へと向かった。
「主上、お邪魔してよろしいですか。」
小さく声をかけたが、返事がない。
扉を開くと、机に突っ伏した頭と拡がる緋色が見えた。
「主上、お加減でも・・・!?」
慌てて駆け寄った浩瀚だが、年若い女王がただ疲れて眠っているだけと知る。
「主上、このままではお風邪を召します。」
声をかけるが、女王は眉間に皺を寄せたまま眠っている。
「その事案はまだ・・・。」
どんな難しい夢を見ているのか、寝言まで険しい。
浩瀚は手を伸ばし、痛々しそうに緋色の髪を撫でた。
眠れないのだと、祥瓊にこぼしたと聞いた。
臥牀に入っても、気掛かりが多すぎてなかなか眠れず、やっと眠りについても良くない夢に起こされてしまうのだという。
周囲の女官たちを不安がらせたくないと、本人は無理やり元気な顔を作っているのだという。
侮られまいと、必死で。
浩瀚は意を決し、そっと椅子を引いて軽い身体を抱き上げた。
目を覚まして暴れられたら、有無を言わさず臥牀に放り込んで寝かしつけてしまおうと思ったが、女王は目覚めなかった。
どころか、そっと頭を浩瀚の肩に乗せ、変わらず寝息をたてている。
心なしか、執務用の机の上で眠っていた時より、穏やかな吐息になったようにも思う。
居心地が良いのか、浩瀚の胸から離れようとしない。
わたしの心も知らないで。
浩瀚は、思わず苦笑を漏らした。
つとめて声に出さないでいたこの想いを、つい漏らしそうになってしまう。
だが、心地よさそうに寝息を立てている彼女の体温が愛しくて、その温もりがもたらす幸福感もまた、手放したくないものだった。
この腕に抱いて、安らぎの中で彼女を眠らせてやれたらと思った。
それこそ。
夢も見させないほどに・・・・
いささか不謹慎なその想像に、浩瀚はもう一つ、自嘲めいた笑いを漏らした。
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