今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで いふよしもがな


〜sideA〜


「人は、変わることができるのです。恵侯。」
半獣だというその将軍の、静謐とも言える静かな言葉を、男は胸の奥底に静かに受け止めた。
それに続いた、あのひとの武勇談も。
かつての彼女を知る自分には想像もつかない、「変わることができた」あのひとの、姿。
想像してみようとする。
だが、なかなかそれらしい形をとれない。
瞼の裏に焼きついている、艶やかで魅惑的だった彼女の姿が、どうしても離れなくて。
目の前の将軍が語る彼女の姿と、己の脳裏から片時も離れたことのない彼女の姿との間の溝が、どうしても埋まらない。
将軍は、信頼している友人のことを話すように、誇らしげに彼女を語る。
きっと、この穏やかで謙虚な将軍の信頼を勝ちえるほどの存在になっているのだろう。
あるいは、もしかしたら・・・??

彼が語るその姿の、自分の中にある姿との、あまりの差異。
せめて、それを目の当たりにすることが出来るのなら。
己の知らない、あのひとの姿を見ることが出来るのなら。
心おきなく別離(わかれ)の言葉を告げることが出来るかもしれない。
貴女と私は、もはや別々の世界の人間なのだと。
せめて、逢うことが出来るのなら。
愚かな。
男は、自嘲の笑みを浮かべた。
今この時でさえ、己の心に巣くう邪な闇を辛うじて封じ込めているのに。
そんな貴女は知らないと。
そのような静かな笑みなど知らないと。
この腕に攫って、誰も来ない牢獄に閉じこめて。
私に憎悪を眼差しを向ける貴女をこそ、私は見たいのだと。
私にだけ、向けられるその眼差しを。

せめて、逢うことが出来るのなら・・・?
馬鹿な。
逢ったら最後・・・・

・・・・・・・・


〜sideB〜


「恵侯は、即座に供王への親書をしたためて下さったよ。」
使者の将軍が、嬉しそうに報告してくれたその事実。
けれど、女はそれを嬉しいと思うことがどうしても出来なかった。
あのひとに赦してもらえるなんて、とうてい思えなかったから。
政事に私情を持ち込む人物であったなら。
おのれの感情で動く人物であったのなら。
あるいは信じることが出来ただろう。
元公主を哀れに思ったか、あるいはまだ大切に思ってくれて、救いの手を差し出したのだと。
だが、彼は決して己の利で動く人物ではなかった。
たとえば。
八つ裂きにしても足りないほどに憎むべき相手であっても、それが国と民の利となるのなら。
景王の側近となった元公主に恩を売ることで、王の失(な)い国の立場が少しでも強くなるのなら。
私情などその場で捨てて動ける人物だった。
今の私には、それがわかる。
わかるから・・・
女は、信じられなかった。

せめて、向かい合って確かめることが出来るのなら。
あの、昔から少しも変わらぬ峻厳な貌(かお)で、わたしを赦すと言ってもらえるのなら。
そうしたら、すっきりと過去を脱ぎ捨てることが出来るかもしれない。
貴方に赦されて。
貴方に送られて。
新しい生を、歩んで行こうと。

愚かな。
女は、己の胸を押さえて唇を噛んだ。
心が泣いている。
心が、どくどくと血を流して叫んでいる。
貴方の腕に、抱いてほしいと。
貴方の胸に、包んでほしいと。
言葉にして口から発することが決して出来ないから。
いつまでも心から直接、痛切とともにほとばしる。

せめて、逢うことが出来るのなら・・・?
まさか。
逢ったら最後・・・・

・・・・・・・




無敵の呪術師すいまさんに捧げます。(こんな痛いモン要らぬと言われても返品不可)この歌って字面だけ訳すと「もう終わったんだということを、人づてじゃなくて直接伝えたい」ということになりますが、もう好きでもない相手に逢いたいなんて普通思わないですよね。この作者の気持ちも、彼らと同じだったんじゃないかと私は勝手に解釈しています。