『マティーニ』


薄闇の中、蓬莱から取り寄せたお酒「スイート・ベルモット」を飲んでいた。
紅い髪を弄びながら、久しぶりにゆっくりと心も体も休ませていたのは、景国女王、陽子であった。

『偶には陽子もハメを外せよ』

隣国の麒麟はそういって、いつも「スイート・ベルモット」をお土産でくれた。
だが、今回は何時もと違って「ドライ・マティーニ」も一緒にくれたのだ。
「やり手に成長した陽子には、そろそろ甘いだけじゃないだろ?」
にやりと笑った麒麟――六太はそういうと、浩瀚にも何かを押しつけて去っていった。
まるで、この後起こることは俺の感知したとこではない!というかのような逃げ足で。

扉をゆっくりと開ける音がした。
こんな時間に、ここまで来れる人物もくる人物も決まっていた。
「浩瀚、明日は久々の休みだからといって、この時間まで起きていては体に障るぞ」
陽子は椅子に座ったまま上体をブリッジのようにしてのけ反らす。
逆さまに見えた浩瀚の手には、一本の酒瓶があった。それは何かと、尋ねる前に彼は答えた。
「延台輔からの贈り物です。今日いただきました」
六太が押し付けていたものだったらしい。
「へぇ、六太君が?珍しいな」
「“GIN”…ギンと読むのでしょうか?」
誰もが犯す、最初の間違いに思わず陽子は笑ってしまった。
「くくく…そ、それは…ね、“ジン”って読むんだ。蓬莱の…いや、南蛮のお酒だな。『カクテル』で良く使われる酒だな。飲んでみたらどうだ?」
言いながら封をあけ、綺麗な硝子<グラス>に注ぐ。ほら、といいながら差し出してくるので、彼は初めて飲んでみた。

初めての味がした。
こんな味は、絶対に常世にはないと断言できる。
そう、まるで私の主のような。
そこまで考えて、ふと先ほどの言葉が気になった。
「主上、『カクテル』とはなんですか」
その質問に、陽子はふわりと笑った。

「『カクテル』って何だと思う?」
陽子はそう言いながらも、慣れた手つきで二つの硝子<グラス>にきっちりとジンを注ぐ。
「言葉の響きからして、蓬莱のモノではないようですね」
「そう、お酒とお酒を混ぜて作るモノなんだ。私にも飲めない強い『カクテル』もあるんだが、結構おいしいんだ。…あれ?なんで成人前にこちらに来た私がそんな事を知っているんだという顔だな?」
喋りつつも、手は細やかに動く。
何所から取り出したのか、封を切っていないお酒を取り出し、先ほどのジンが注いであるグラスの中にそれを注ぐ。
「お父さんの書斎にあった本を、昔こっそり読んだんだ。ついでに言うと六太君に頼んで本を取り寄せてもらったんだ」
ほら出来たと、新しいグラスを渡してくる。
「延台舗に?」
急にイライラとしてくる胸のうちを明かさない様、あたらしいグラスをぐいっとのみ干してしまった。

眩暈がする。
鼓動が早くなったような気がする。
「…!な!何か入れましたか!?」
陽子はゆっくりと近づいてくると、またしゃべりだす。
「いつも私が飲んでいるスイート・ベルモットとジンを混ぜ合わせると“Gin&It”。先ほど出したドライ・ベルモットとジンを同量混ぜたものを“Gin&French”そして…」
視線を胡乱にさ迷わせている浩瀚の背中に腕を回し、耳元で囁く。
「ドライ・ベルモット1を、ジン2で割ったものを“Martini”と呼ぶんだ」
自分でもうひとつのグラスの中身を飲み干し、グラスを卓の上に置く。

背中に回した手を、浩瀚の顔へと上げてくる。
確りと顔を挟むと艶やかな微笑を載せながらいう。
「私が好きになったドライ・ベルモットにジンが勝ったモノ…それだけを“Martini”と呼ぶんだ」
既に、ナニかを耐え切れなくなっていた浩瀚は、陽子の腕を自分の胸に引き寄せ、その細腰を掻き抱く。

甘いにおいがする。
酒のにおいか、それとも彼女から香るのか。
「私<ジン>が貴女<ベルモット>に勝ったものがMartiniだとおっしゃる。では、勝者は如何しようと構いませんよね?陽子…」
荒荒しい口付けが陽子の上に落ちてきた。
何かを言おうとしたその唇は、浩瀚によって塞がれる。
だが、言葉は通じたはずだ。

「やっと名前を呼んでくれた」

紅き御髪と御魂をもつ女王。
かの女性を射止めしは――氷結の閣下。


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私のマティーニってこういうイメージですな。
陽子からさそうんですな。あはははは(逃げ)




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りょくさんのイチャイチャ浩陽です。貴重なのです。そして誘い受なのです。まるで私のために書かれたかのよう・・・(違います)もう、計算高く閣下を堂々と誘惑する主上がモロ私の好みですvvわかっていて罠に自らはまる閣下も!!そして、さりげにここでも存在感を見せつける六ちゃんもステキvv