ざざん…ざざん…
雲海の涼しげな潮騒が聞こえる。
景王陽子のお気に入りである雲海が見渡せる、彼女の部屋。
月夜の晩酌と洒落込むのが相応しいその場所に、部屋の主は…
常世では見られない、珍しいお酒を飲んで、寝こけていた。

「…?中嶋さ…ん?そんな所で寝ていたら、風邪をひきますよ」
同じく胎果である泰麒こと要が、陽子の肩を揺さぶった。
「んー…ぅにゃぁ…」
言葉にならない陽子の返事に、苦笑するのだが、このままではいけないと更に声をかけた。

すると

「んもーぅ!泰麒ちゃんたらぁ〜。女の子を起こすのならもっと丁寧にしなくちゃぁ〜vv」
様子が変である。
めちゃくちゃ変だ。絶対。
「あ…あの。中嶋さん?いったいどうしたんですか?酔ってます?」
何か嫌な予感がするのだが、一応聞いておくのが慈悲の麒麟。
私(作者)ならこの様な状態の友人には、丁重にお帰り願う。
ふと、周りの様子を見て、泰麒は驚いた。

『爽やか缶チューハイ!』

などと言う、どう見ても蓬莱の有名酒造メーカーが作ったとしか思えない缶酒なのだ。
それも、3缶ほど。これを、自分たちがいなくなった、たった1時間ほどで飲んだのか?
嫌な予感を更にさせ、いや、悪寒をさせながら、首を「ぎぎぎっ」と音を立てながら振り向いた。

にやりと、嫌らしい笑みをする陽子。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!やーめーてーくーだーさいー!!!」
泰麒の絶叫が夜の金波宮に響いた。

どたどたどた。
何事かと先ほどまで一緒に話をしていた面々が集まってきた。
今宵は、泰国からの客人が来るからと、騒ぎを起こしても気にするなと言ってある。
今夜は、景王と泰王を含んで、月見をしていたのだ。
チョットした事情で、陽子を残して他の面々が席を離れ、一足先に泰麒が陽子の相手をしに戻っていったのだが…
今の悲鳴も余興と思われているだろう。だが、出席者達は一応顔を出したのだ。
「どうかなされましたか?泰き…」
「麒」が「き」のままで慶国の冢宰に、台輔。泰麒の主人である驍宗は絶句した。

悪酔いしている陽子にクダを巻かれる泰麒がいた。
泣きながら主人に助けを求める泰麒がいた。
「んん〜。私のお酒が飲めないって言うのかなぁ〜」
既に陽子は新人OLにセクハラする親父と化している。
いや、悪代官の「帯グルグル剥ぎ」の如く、泰麒の服を解こうとしている。
すでに、「よいよい、ちこうよれ。」の段階は過ぎている様だ。

あまりの惨状に浩瀚は怒りに震えていると、足元にあった、まだ封を開けていない缶酒を見つけた。
「主上…これは、どちらで手にお入れになりましたか」
底冷えするような怒りに気づかない陽子は笑いながら言った。
「えー?六太くんがくれたの〜。成人のお祝いだってー」
『ばきょっ!ぶしゅっ!!』
缶がつぶれる音がした。

「…あんの小猿がぁぁぁ!主上にこんな『安っぽい酒』贈りやがってぇぇ!悪酔いしたじゃねぇかぁぁぁぁ!」
既に、雁国の麒麟に対する礼儀は消えていた。
「ふふふふふふ。どのような返礼を致しましょうかねぇ」
先ほどの言葉の乱れを直して、浩瀚は冷たく、絶対零度の氷の様に言った。

その後、延麒がどのような目にあったのかは、あえて言わない。

<了>




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りょくさんが掲示板に書いて下さったもの。うふふちゃんと保存してますわよvvセクハラに遭う泰麒が可愛いです。残念、もうちょっとで全部剥けるところだったのに(え??)
それにしてもなんで缶チューハイが安っぽい酒だと知っているんだ浩瀚・・・