無人の堂室で榻にくつろぎ、男は杯を手にした。
そのきりりとした冷たさは、かの少女の凛とした立ち姿を思わせる。
爽やかな芳香までがその人に似て。


男は目を閉じて酒を口に含む。
口腔いっぱいに広がる果実のような香り。
すっきりとして、それでいて豊かな味わいは陶酔を誘い。


米を磨きぬいてその心髄のみで醸したという酒は、転がるように男の喉を落ち、胃の腑の底を燃やす。
口当たりの良さに油断して杯を重ねれば、気が付いた時には焼け付くような渇望に身を焦がし。
眩暈にも似た惑乱に男は目を閉じる。


瞼に浮かぶのは少女の引き締まった肢体。
白く柔らかで触れるとひんやりとしている身体。
それはまた男の愛撫で熱く燃え上がる肉体でもあり。


目を開けた男は杯を乾し、新たな酒を注いだ。
揺れる水面。
透明な少女の涙。


男は再び杯を口に運び、ぐいと呷ると溜め息を吐いた。
抱きたいと。
何度抱いても、それでもなお抱きたいと。



己の欲のあさましさに苦く笑い、男は杯を乾した。




*******************************************************

ぽぺさんさすがに反応がお早いです!日本酒編です。冷酒ですね〜、舌に乗せた時はまろやかでひんやりとしてるのに飲み干した後焼けるように熱いんですよね。気がつくとしこたま酔っ払ってる・・・(←身に覚えあり)そして日本酒といえば透明!それを涙になぞらえるなんてさすがぽぺさんです。もちろんこの涙は悲しい涙じゃなくて最中の・・・ぶち(原因不明の回線切断)
ぽぺさんいわく男が誰かをあえて明言されなかったということですが、日本酒で作者がぽぺさんですからね。尚隆以外に想像がつきません私は。(^^;