est〜上の人編〜



「高崎に逢いたい。」

隣に座る同僚から出てきた台詞は、あまりに直截だった。
「どうした急に。」
大宮に向かう新幹線の中で、上越は下を走る在来の線路を見ながらそれを呟いたのだ。東京でのミーティングを終えて大宮に戻る帰路、上越は先ほどまで上機嫌だったのに、急にテンションを下げた。
「だあってさ。」
上越は窓に貼り付き、まるで外にでも聞かせようとするかのように主張を口にした。
「僕らは乗り変え駅が近付くまで全然線路とか近くないし交わらないし姿見えないし、さーびーしーいー。」
「・・・。」
本音には違いないのだろうが、いささかわざとらしい物言いに東北は反応を選びかねた。
東北は、手元にあった路線図を開いた。
まもなく着く大宮駅を出た後、上越新幹線はほぼ直線の高架を走って日本海側へと向かう。並行在来である高崎線はその下を確かに走っているが、高架との接点はほとんどなく、接続駅である熊谷駅や高崎駅が近付くとやっと見えてくるという按配だ。
「大宮着いたら高崎に逢いに行こうっと!」
上機嫌な声音に戻って、上越が浮き立つように言うのでとりあえず相槌を打つ。
「逢える時に逢っておくといい。」
だが、上越の不満は収まらなかった。
「だいたいこの後熊谷と高崎だけなんて、視界に入る回数が少なすぎるよ!」
口を尖らせて言い募る。
第三者の前では惚気を全開にするのに本人には全く違うことを言うのが不思議なところだが、それが上越の個性だ。
東北は、路線図を畳みつつ、視線は前に向けたまま言葉を繋ぐ。
「視界に入ることが少ないというのは、視界から消えることも少ないということだろう。」
「あー。」
上越がわずかに口の端を上げて、納得したように頷いた。
「それもそうだね。」
そして、思い出し笑いのようにふふと笑い声を上げた。
「高崎の線路が目に入ってくる時は嬉しいけど離れて行く時は寂しいもんねえ。そりゃもう、肩つかまえてこっちに引き寄せてそのまんまベッドの中に引き摺り込んでぐちゃぐちゃになって、朝まで離したくな〜い!ってキブンになるもん。」
「・・・・。」
「そんなの、頻繁にあっちゃ堪らないよねえ。」
「上越。」
東北は、両手に持っていたレモン牛乳のパックを一つ、上越に渡した。
「なあに。くれるの。」
「お前、カルシウム足りてないだろう。」







これでも上官本線なのだと言い張ってみる。東北旅の帰路、上官から見える本線は見えては消え見えては消えの繰り返しでした。
別ジャンル(種DでKS+AS)の同人誌で「オープンスケベは考えていること以上を口にする。ムッツリスケベは言われたこと以上を想像(妄想)する。」という対比があったことを思い出しながら書いてました。私もカルシウム(というか他にも色々)足りてないですごめんなさい。